批評祭参加作品■〈日常〉へたどりつくための彷徨 ??坂井信夫『〈日常〉へ』について/岡部淳太郎
 
 私たちはみな生きている。〈日常〉と名づけられた普遍の中を、誰もがみな例外なく生きていて、そこから離脱することは許されない。だが、時にそこから否応なく離脱させられて、戻ろうとしてもなかなか戻れずにいることがある。そのような状態にある者にとっては、慣れ親しんだはずの〈日常〉こそが異世界である。彼はそこで孤独に陥りながら自らの心の声を聞く。たとえば夢想するなどして、自らのうちに深く沈潜する。そうして孤独の中に浸っているうちに、求めたはずの〈日常〉を厭わしく思うようになる。それはひとつの悲劇であるかもしれないが、詩的な驚きに満ちたものでもあるのだ。
 坂井信夫『〈日常〉へ』(二〇〇六年・漉林書房)は、
[次のページ]
   グループ"第3回批評祭参加作品"
   Point(1)