尾崎喜八「山の絵本」を読む/渡邉建志
、私はこのモリカドダケの人を見た。クロワゼエの外套を長めに着た瀟洒な大学生だった。美しい令嬢風のその連れは、彼らの会話の様子からすると、あるいは許婚の相手であったかも知れない。私はこの若い二人の未来の心の幸せのために、知らざるを知らずとする徳を、勇気を、心中ひそかに勧奨せざるを得なかった。
知ったかぶりの「彼奴あ素人だぜ」野郎には厳しかった喜八さんですが、この瀟洒な若者たちには温かい視線を送っています。名前なんて実際どうだっていいんです。揚げ足を取って喜ぶ例の野郎なんかより、ずっとこっちのほうが愛にあふれている会話なのですから。それにしてもまあなんとこの許婚たちの美
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