水の駅/千波 一也
う
汽笛と似ている
どこが過去たる境目か
どこが行方の限界点か
停まる者には
定かでなくて
そのくせ困りはしないから
汽笛と似ている
わたしにしかいえない
始発の駅の名は
ちがう名で
だれもが
いえる
事実に乗ることと
真実に乗ることとは別物、と
よくわからない話をされたのは
いつだったろう
だれだったろう
空と列車が
湖面にうつり
車窓を通過してゆく
間違えてはいけないことなど無い
いいえ、間違えることなど
あり得ない
なぜなら
次にも
次の次にも
駅はあるから
降りても降りなくても許される
駅があるから
絶え間のない幻の向こうには
やはり絶え間のない幻がある
だからわたしは
ひとりで在らねばならない
此処に
ひとりで在らねばならない
守られることがなくても
守りたくてしかたのない
ささやかな一滴の
その無限が
枯れぬよう、
線路は
錆びても
なお線路である身をうたがわない
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