聖女のオルガン /服部 剛
 
たいして金のないわが家に 
いずれ残ったら金をくれと言っていた 
付き合いの長いSさんが来たので 
眉をしかめていた僕は 
家にいたくないので外へ出た 

散歩の途中 
なだらかな坂を上ると 
緑の屋根の教会があり 
ドアを左右に開くと 
両脇に並ぶ長椅子の間に敷かれた 
ぶどう酒色のじゅうたんの向こう


( 十字架にかけられた人は 
( 黙って両腕を広げ  
( 心の煮えきっていた僕を待っていた 


最後列の長椅子に
腰を下ろし 
胸に両手を当て 
瞳を閉じる 


( 闇に伸びるSさんの汚れた手は 
( ほかの誰かに何かをほしがる 

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