忘れること、忘れないでいること/岡部淳太郎
 
れを購入している。いま読み返せば、何とも言えない物悲しい気分に襲われてしまう。その中に、偶然だろうか、「忘れる。」と題された一篇もある。この小説の表題のように、彼は人々の記憶から忘れ去られてしまうのだろうか。あれほどすぐれた才能を持った人が忘れられてしまうなどというのは、何とも理不尽なことのように思える。だが、彼は「現代詩フォーラム」を退会してしまい、彼がそこに発表したすべての文書は綺麗さっぱりなくなってしまっている。手元に残った一冊の小説集だけが、彼が存在した証しになってしまうのだろうか。それだけではまだまだ足りない。彼が発表した詩や評論も、彼と一緒に忘れ去られてしまうのだろうか。
 忘れるこ
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