忘れること、忘れないでいること/岡部淳太郎
 
 忘れる。人だとか物だとか、さまざまなものを人は忘れていく。今日を生き延びるために、無理矢理にあるいは自然に、忘れていく。だが、その一方で、忘れないでいるという選択もある。かつて一緒にいたけれどもいまは離れてしまった人、所有していたけれども失くしてしまったり捨ててしまったりした物、そうしたさまざまなものを、人は忘れずにいることが出来る。今日のために忘れるよりも、今日という日のための教訓や彩りとして、それらを忘れずにいるということ。記憶という広大な海の中で、人は日々意識してか無意識のうちにか、物事に対して忘れてもいいものと忘れてはいけないもののどちらかに分類して生きている。昨日の夕食のメニューが何だ
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