俺と鳥/緑茶塵
 


俺は鳥かごを持って、もう一度今乗ってきた反対方向のバスに乗った。

バスは兄の住んでいた町を過ぎ、駅前を過ぎ、郊外を過ぎ、学校を過ぎ、病院を過ぎ、やがて終点へとたどり着いた。
俺は終点でバスを降りた。

河原があった筈だ。いつか姪を連れてきた事があったので覚えていた。その河原の向こう岸には、人の手の入っていない山があった。

河原についた頃には、曇りのせいもあって少し暗くなりかけていた。まだ夕方に差し掛かったばかりだと思うが、やはり嫌な気分にさせるような一日だったと思う。帰りに延々とバスに乗るのかと思うと、それもまた憂鬱だった。
河原に下りる階段を見つけると、早々に降りていく。俺は早く帰りたかった。

川べりにつくと鳥かごを開け放した。鳥は窓が開いても、いつもと変わらず平静だった。
俺は引っつかんで放り出してやろうとかごに手を入れると、途端に鳥は暴れだした。そして俺の手の隙間から逃げ出すと、あっという間に山の方に飛んでいってしまった。

かっらぽの鳥かごは実に無意味で虚しかった。
鳥が飛んでいった方を見上げると、山の方は少しだけ晴れていた。
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