風の手のひら /服部 剛
母親が子どもを抱いて
遠くから走って来る車が横切る前に
駆け足で道路をわたった
「向こう岸」の広場に辿り着き
母の手からそっと地上に降ろされた子どもは
嬉しそうに両手をひろげて走り出す
ぼくが職場の老人ホームで
お婆ちゃん達に囲まれ楽しく過ごすのも
月一度の朗読会で司会して
みんなと互いの自分らしさを味わうのも
天にまします まことの親 が
できそこないな自分に嫌気がさして
うつむく影を伸ばしたぼくを
風の手のひらですくい上げ
自分の役を演じる場所へ
運んでくれたからかもしれない
わが子を大事に抱えて
道路の「向こう岸」へと運んだ
あの母親のように
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