風を忘れた君へ (Ode to a nerd)/月夜野
 
 世界の片隅で生まれた風は
 猫柳の枝を揺らし
 水辺に群がる蝶の触手を掠め
 乾いた轍の上を砂塵を巻き上げながら
 叫びと響きを翼にのせて
 つむじとなって舞い上がる
 鋭いまでの切っ先で遥かな高みに挑みかかり
 打ち破れうなだれた幼い風は
 地を慕うように吹き戻り、棕櫚の梢へ
 やがて閉ざされた窓へと――


 君には風が見えないか
 生まれたばかりの清新の息吹を
 その頬に感じないか
 暗い砦の奥
 明滅する記号の森をさ迷う中で
 君は忘れてしまったか
 極北の氷河の上を奔馬のように走り抜け
 冷涼の気とともに駆け下る風の力強さを
 その存在の清々しさ
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