水没都市/月夜野
 
 薄闇のなかで煙っているのは
 発光するわたしの、産毛にかかる氷雨
 ヒールを脱ぎ捨て、アスファルトに踏み出す素足は
 ぴしゃり、ぴしゃり
 水溜りに滲んだネオンを攪拌する
 ぐっしょりと水を吸ったドレスの裾は
 まるで死んだ魚類の、濡れそぼった尾びれのよう


 水に侵された都市の底では 
 管という管が大水を吐き出し
 傘のない男たちは、地上へと走る
(走った先で彼らは水の味のする飲料を
 そうと知らずに飲み続けるのだ)


 水は世界を反転させ
 反転した世界の王は
 地下にある秘密の巨大水槽に君臨する
 王国の壁は厚いので
 放水路が放つ数億トンの水
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