私の手/三州生桑
 
ショッピングセンターの、ひとけの無い屋上駐車場に、子どものすすり泣く声が響いてゐる。
・・・と言ふと何やら怪談めいて聞こえるが、そんなロマンチックな話しではない。
誰が泣いてゐるのかと思へば、可愛げのない男の子が嘘泣きをしてゐるのだった。
迷子だ。田舎は平和だな。
こんな何も無い所で、グズグズ泣いてゐても仕方なからうに・・・と、これは大人の了見。
まだ四、五歳の幼児だ。
私は、男の子に手を差し伸べる。
男の子は無心に、私の手を握る。
その手は、しっとりとしてゐて、生温かかった。本当に泣いてゐたのかも知れない。

ふと私は思ひ出す。
いつであったか、或る女性に、かうして手を差し
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