ボート/杉菜 晃
 


湖心から湖畔へと

一艘の無人の白いボートが

静々と漂つて来る

寄せくる波に身を委ねて

従順な驢馬のやうに

いつたい何を乗せるつもりなのだらう

あるいは誰を

そして

どこに連れて行くつもりなのだらう



白いボートは細波に揺すられながら

徐々に徐々に湖畔によつてくる

辺りに人影はなく

岸に柳が一本

人待ちふうに立つてゐるだけ

ひつそりした深山の湖に

始動の気配を見せてゐるのは

唯一ボートのみ

いつたい誰を乗せるつもりなのだらう




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