幸福のパン /服部 剛
本を開くと
そこは遠い昔の日本のお寺
お金持の人々が行列をつくり
次々と賽銭箱に大判小判を投げ入れて
ぱん ぱん
と手を合わす
そこへ
ひとりの乞食があらわれて
薄汚れた手に握った
なけなしの小銭をちゃりんと投げた
すると
本堂の扉は左右に開き
正面奥に坐る
お釈迦様の像は光を帯び
瞳を閉じたお顔の頬がほころんだ
*
本を閉じると
らんぷに照らされた夕餉のテーブル
ティーカップに入った一杯の紅茶と
皿にのった、まあるいパンがひとつ
( 給料日の10日前
( すでに口座のお金はすっからかん
先月の給料日の夜
たらふく食べたステーキはうまかったが
今夜、焼きたてのまあるいパンを食べると
ステーキとはちがう なにか が
ぼくのなかで ふくらんだ
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