電卓は/黒田康之
 
その1は整列をして十二個並んだ
僕のその日の愛しさはそれらの列に途方に暮れた
千億なのだと生唾を飲んだ
こんな小さな事業所の
経理でもない僕の机に千億という電卓がいる
365と打って
僕はそれに百をかけた
それでも数は左端には届かずにいる
さらに僕は24をかけ
60をかけたけどまだ果てには届かない
さらに60をかけたところで僕は全てを0に戻した
僕の一生の一秒で満たされないこの桁を満たすものはと考えた
考えながら思い返した
そうしたら頭の中に端数がたくさんこぼれ出して
僕は端数に支配されてしまった
どうにも割り切れない思い以外に
この桁を満たすものなどないのだと思い当たった
僕は社長の顔を思い出した
僕よりずっと年上のあの男は
僕らにこれを渡して
世の中は割り算なのだよと
きっと笑っているのだろう

僕はそれが好ましかった

それにしてもこの電卓を誰が使ったのだろうか
僕は割り算で考えながら
何を食べたか忘れてしまった

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