電卓は/黒田康之
昼飯が終わって席に帰ると
閉じたパソコンの上に電卓があった
そんなところに置いたつもりはなかったが
なんだか光って見えたので僕は手にとってみたのだ
いつも使い慣れた電卓は実は僕のものではない
いうまでもなく会社の備品だ
手に取って眺めて
キーに触れると0を描いた
すると何だか愛しくなって
電卓の全てが知りたくなった
僕が初めて電卓に触れたのはいつのことなのだろう
確かではないが親父が自慢げに八桁電卓を僕に見せたときだろうと思う
その時の僕は
一十百千と指折り数えて
千万という途方もない数に驚いたはずだ
僕は今手にある電卓の1のボタンを押してみた
見事なくらいその
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