ピラニア/「Y」
僕はあらためて、明の部屋を見回した。本棚の置かれている壁面以外はすべて蝶の標本箱によって埋め尽くされていた。僕は、その部屋に置かれた無数の蝶に、ただ圧倒されるばかりだった。明は口を開いた。
「標本作りというのは、たしかに手間はかかるけど、蝶を台紙にピンで留める瞬間の満足感が、それまでの苦労を帳消しにしてくれるんだ」
「満足感? 」
僕は明に訊き返した。
「僕の身体を通して、蝶に関する知識が僕の脳にしっかりとインプットされたんだという満足感だよ。君は哂うかもしれないけど、僕は蝶の新種を発見したいと思っているんだ」
「新種? 」
「そう。それほど荒唐無稽な話ではないんだ。いまでも毎年
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