右ハンドル/田島オスカー
 

ねえ 眼鏡をはずしてちょうだい

あの日
乱視のあたしには赤い三日月がぼんやり
綺麗な輪郭が滲んで
チープな哀愁とたたかっていた

あの日
いつもと同じはずだった助手席は
誰のせいでもないのに居心地が悪くって
だからあたしはめずらしく寝たふりをした
聞こえた舌打ちに目を開いて
顔をそらしたその先に滲む赤信号
その先に見えるはずだった赤い三日月
滲んで

あの日
誰だって戸惑ってしまうような赤い三日月
すべてが暗いから目立ってしまった
ねえ 眼鏡をはずしてちょうだい

もうもどれない
辛くても痛くても

すべてが輝いて見えたとしても
すべてを滲ませてしまっても

何も
手に入らないとわかっても
もう

 
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