ナルシスの帰還/三条麗菜
 
お帰りなさい
心から待っていました

やっと帰ってきて
くれたのですね

あの人はもういません
赤い赤い波が押し寄せて
あの人は一瞬で
さらわれてしまったから

私はこの浜辺に残されたまま
一面散らばった貝殻と同じように
真っ白な化石に
変わっていくところでした

あの人を守りたかった
貝殻に耳を当てれば
聞こえてくるのが本当の
命の音だと信じてほしかった

でもあの人は
ただ一面の
ただ一面の
青い海を見て
海鳴りに耳を済ませていた
ああ
あれはセイレーンの歌声だ
どうか聞かないで
どうか聞かないで

股間から血をしたたらせた
セイ
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