消えた店 /服部 剛
2年前
中年夫婦で営んでいた
ふっくら美味しいパン屋さん
大洪水で流された
跡地には
独り身の若旦那(わかだんな)が一人で開いた
手打ちの美味しい蕎麦(そば)屋さん
人通りが少なくて
1年持たずに店を閉めた
数ヶ月前
上司と食べに行った時
手間暇かけて運ばれた狸蕎麦を
お互いのどんぶりから湯気を昇らせ
「 うまい、うまい 」
と食べていた
ある日
散歩でそこを通ると
ドアノブから垂れ下がる「CLOSE」の看板
無人の暗い店内に
ロダンになった若旦那
テーブルの上に頭を抱えて座っていた
( 通り過ぎた僕の脳裏に甦るのは
( 開店の日に
( 店前に立てかけられていた
( 祝いの花々
今日
久しぶりにそこを通ると
とある悪徳セールス会社になっており
ドアの中
わざとらしく明るい部屋の受付に
眼鏡をかけた軽い笑顔の男性が
姿勢を正して座っていた
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