旅/杉菜 晃
 

山里に出会ふ少女はひたすらに
   坂下り行き畠(はた)のトマト赤し




D展に出す絵のモチーフを探して
山地を旅していた
山里の道を歩いていくと
籠一杯のトマトを背負った少女と出会った
―おいしそうだね―
ずっとひとり旅をしてきた人恋しさから
私はそんなことを口走っていた
―どうぞ―
少女はお守りしていた背の赤子を
見せるような仕種で
旅人の前にトマトの籠を向ける
―ありがとう では一つだけ―
私は遠慮がちに一つを摘まむ
―好きなだけ―
少女は言って 背の籠を揺すった
私は三個貰い受けてバッグに入れた
―貰うだけで 何もあげるものが
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