山手通り/松本 涼
 
涼しくも親密な風が肌に纏う
山手通りを僕は行く

この時点でどの地点
この視点でどの次元

知りたがらない疑問符たちが
流れては逝く目黒川を横目に
僕は歩く


季節に気づかないままに
色を変え始めたイチョウの木が並んでいる

行き止まりにも似たガードを潜(くぐ)り
僕はまだ歩く


役に立たない無邪気さばかりに
溺れてしまった僕には
哀しみと欲望の境目がない

例えばタイルを敷き詰めたこの道に
僕はどれだけの自身を放てるのだろう


それでもたましいはいつだって真剣に不器用に
意識との距離を計っている

そうしてやっと灯りが見える頃
塗りつぶした時間の触手は
僕を弄(まさぐ)り始めるのだ





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