めぐる/蒼木りん
いくら季節をなぞっても
あの
雪の下から覗いた肥えた土や
畑の土手にあったネコヤナギには逢えない
まだ
畑の隅に溜池があった頃
日本は
もう
どこを歩いても犯罪に巻き込まれてしまう気がして
家から出られない
火燵の中で
足の匂いと
一酸化炭素中毒になりかけながら
練炭が熾るのを見ていた
わたしは死なない子どもで
今ここに至るまで
そしてこの先までも生きるために
死なない子どもだったんだろう
実に不思議だ
苦しくて不自由だった頃の
ほんの小さな温かなことが
とてつもなく愛しい
失ったと思うものは
わたしの脳のひだの裏奥深くに
わたしだけのために居て
暗闇を知らずに育った子は
日の恵みも
気づかぬまま
わたしの
こぼれた幸福の
呟きを
拾う子はいるだろうか
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