稚内へ行って死のう/しゃしゃり
 

ああけっこう。
その程度の俺なのだ。
遠いところから、
とてもとても、俺は遠いところから、嵐の海を泳いできた。
オレンジ色のブイを目指して。
ブイにたどりつけば、
一体、それは島でもないのに、
ほのかな希望のように、
浮き沈みする小さな、
過去にしがみついていたいと思うのだ。
どこかからサロンパスの匂いがする。
俺はサロンパスなど貼っていない。
表を犬と散歩するばあさんの腰からの匂いかもしれない。
とにかく、俺は、
稚内に行く。
飛行機で行く。
どんなに寒いか知らない。
どんな匂いかもわからない。
天気予報は雨だ。
こんな秋にはサロンパスの匂いがする。
[次のページ]
戻る   Point(9)