背後/服部 剛
 
急いで道を歩いていたら 
目の前の車が理由(わけ)もなく止まった 

(下手な運転しているなぁ) 

車と壁の狭い隙間をすり抜けると 
痩せこけた若い母が咳(せき)を繰り返しながら 
少年に手を引かれ 
静かに俯(うつむ)いて歩いていた 

日頃の勝手な自分の姿を棚に上げ 
約束の時間ばかりを気にしている 
器の小さい自らのうしろめたさに 
後ろ髪を引かれながら 
目の前に視界の開けた道を歩く 

忙(せわ)しい僕の後ろ姿を 
止まったままみつめる車と 
手を繋(つな)ぐ母子を 
背後に 




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