家元/明日殻笑子
 
容れ物のように穴のあいた胸に

こっくりと深い紅の薔薇を生けた

晒されて焼けついた

空の心を

かざりたてた



胸にあいた穴が底をうがつ時が

いづれくることを予想して

水も注がずにただ

わたしは紅い薔薇を差し続けた

まるで失くした血潮を

正しく埋め合わせる

かのように



ながす涙も

吐き出す息も

すべてがわたしの色では

なくなってしまったのにそれでも

胸の薔薇がおとす足音と

枯れた棘の固さが

わたしはこんなにも怖かった

かきむしるような渇きにたえられず

おもわず花瓶に水を注ぐと

こっくりと深い血のような紅が

胸の穴の底からこぼれおちていった




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