立待月のメタモルフォーゼ/三州生桑
ひんやりとした向ひ風が
私を包みこむ
日曜日の午前五時
さびれたアーケード街
まるで墨汁の海を
掻き分けるやうにして
灯りのないアーケード街を
私は一人駆け抜ける
若い女が泣き喚いてゐる
ろれつの回らぬ絶望
薄情な煙草の火
男の声「お、誰か走ってる」
女の嗚咽が追ひかけてくる
お嬢さん、お嬢さん
あなたはまだ生まれてゐないか
もしくはもう死んでゐるね
アーケードを抜けると
月光が私をくまなく照らし出す
私はじわりと変容し
あらたな性を味はふ
ランナーズ・ハイに耽ってゐると
むせび泣く声が追ひついてきて
しつこくしつこく私に絡みつく
・・・ああ、さうか!
あの女は私の妻だったのか
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