鎌倉・報國寺 〜初秋〜 /服部 剛
 
久しぶりに訪れた報國寺(ほうこくじ)は 
雨が降っていた 

壁の無い 
木造りの茶屋の中 
長椅子に腰かけ 
柱の上から照らす明かりの下 
竹筒に生けた秋明菊(しゅうめいぎく)を傍らに 
膝の上に空白の日記を開き 
今日の日を綴(つづ)る 

目の前の長椅子に 
若い夫婦と子供の兄弟 
雨に濡れた 
無数の紅葉(もみじ)の葉傘を 
四人黙って眺めている 

父の大きい手のひらから 
渡された茶碗を 
息子は小さい両手のひらいっぱいに抱え 
「 おいしい 」 
と抹茶を啜(すす)る 

四人家族の向こう 
無数に立つ竹林の隙間に 
傘を差す ひとりの背中が 消えた 




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