他部族の踊り子/緑茶塵
ありがとう、そう呟いたように聞こえた。
さっきの二人……
夜風が吹いた。よく聞き取れなかった。
「さっきの二人?」
返事が聞こえない。
もう他部族の踊り子は、眠りに就いてしまったようだった。
藍で染めた外套が夜の闇に溶け込んで、酔いもだいぶ回っていた。
俺も寝転ぶと、そのまま眠りについてしまった。
目が覚めたのは明け方だった。
彼女が起きたので、つられて目が覚めたのだ。
「寝ちゃったわね」
朝日を背に浴びて、そう言って笑った。
「そろそろ行かなきゃね」
彼女は立ち上がって集落の方へと歩いていく。
「ああ、そうだ…」
「何?」
「名前を教えてくれないか」
「ジェシカよ。それじゃ行くわ」
朝日の昇る地平線は金色に染まっていた。
去って行く異文化の赤と青に、金色の光りが降り注いでいた。
踊り子を抱いていた腕には、微かな温もりが残っていた。
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