吉岡実と非在の場所/ななひと
吉岡実はどこでもない場所を、どこでもない位置から、他にたとえることのできない質において出現させる。
わたしが水死人であり
ひとつの個の
くずれてゆく時間の袋であるということを
今だれが確証するだろう。
(「挽歌」(『静物』所収))
「水死人」である「わたし」は、「個」であるが「くずれてゆく時間の袋」にすぎない。〈時間〉に投げ出された存在である私は、〈時間〉の中で、「くずれて」ゆく。〈時間〉という予測不能な未来に向かって、私という存在は、一つの閉じた存
在とは決してなりえない状態としてしか存在することができない。さらに、そうした自己の状態は「だれが
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