朝焼けの声 /服部 剛
気がつくとその女(ひと)は
明け方の無人列車に乗り
車窓に広がる桃色の朝焼けを
眠りゆく瞳で見ていた
列車がトンネルに入ると
全ての車窓は真黒の墨に塗られ
闇の空間を走り抜けると
再び視界には
桃色の世界が広がる
その女は
眠りゆく意識の中で
「 人生みたい・・・ 」
と呟いた
いくつもの雨と嵐の夜を過ぎ越し
視界に広がる夜明けをみつめる女を
列車は連れてゆくだろう
今は亡き
母の胎から生まれる前に
約束された名前の無い駅へと
閉じかけた瞳の先にみつめる朝焼けの空に
在りし日の母のまなざしが浮かぶ
眠りゆく意識の中で
遠い過日から
娘を呼ぶ
懐かしい呼び声が
木霊(こだま)する
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