はじめの一歩 〜鎌倉の寺にて〜/服部 剛
 


抹茶を飲み終え
茶室を出る 

  * 

境内を囲う 
緑の木々の頭上を見上げると 
風の手のひらが握る透明の絵筆が描く空の絵は 
青から桃色となり
やがて夜空に一番星は瞬(またた)く

山へと続く石段の上から 
鐘が鳴り、境内に響きわたる
夕刻 
幹の捩(よじ)れた梅の枝には 
無数の蕾(つぼみ)が春を待つ 

  * 

北鎌倉の山寺の 
澄んだ空気を吸い込み 
境内の門を出ると 

目の前は
高い谷間に架かる長い吊り橋の袂 

遠く伸びる木目の板が
みしみしと音を立て 
風に揺られている 

眼下に揺らぐ足元に  
小さい一歩を 
そっと踏み出す







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