雨と二の腕/黒田康之
遥かの西方から雨は僕の世界にやってきて
もう三日も降り止む気配がない
大粒の
激しい雨に
僕は傍らにいるお前の二の腕をつかんだ
お前の二の腕は白く
とてもやわらかい
クニクニと何度もつかむ
そうすると冷ややかだったお前の腕の
骨の芯からゆっくりと上昇してくる体温があって
少なくても
玄関に倒れている緑の傘よりも
お前は僕を濡らしはしないと確信する
三日続きの豪雨にあって
私もお前も
こうして降り込められたままなのだ
お前を抱くと肌の匂いが
はっきりと僕の鼻の奥のほうに
違う宿りを形成して
たとえ今降るものが
炎であっても
それに似た百日紅の花であっても
お前は僕を濡らさないだろうと確信する
僕はお前の二の腕を
何度も何度も握っては
確信という名の
愛とも呼べぬ感情を
意図して今の自分の中に積もらせてゆく
時折雨音でお前の声が聞こえなくなって
言葉が僕の世界から消える瞬間があっても
僕はお前を感じている
雨はゴウゴウと降っている
もう外は世界の終わりみたいだ
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