駒ヶ根 /服部 剛
、明け方の空色
中心に、光る月を浮かべていた
枯れはじめた向日葵(ひまわり)は俯(うつむ)いて
足元に咲く白い野菊に、まなざしをそそいでいた
赤や紫のコスモス達は
昨日伊那路を走る列車の中ではしゃいでいた
前髪を切り揃えた娘達のようにゆれていた
木に停まり、朝を告げていた鳥が羽ばたく音
田んぼの中から聞こえる蟋蟀(こおろぎ)の唄
坂道の上にある農家の庭から聞こえる犬の遠吠え
影に覆われていたアルプスの頂に、日が射し始めた
畦道の十字路に立ち止まり、振り返る
歩いて来た、一面の田の彼方にも
霧に覆われた幽遠の山々は連なり
朝日を隠す雲の下から光の柱が降りていた
彼方の山々に囲まれて
広がる田の中心に立つ
新たなる「今日という日」
世界は、旅人に与えられていた
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