放課後/落合朱美
 
夕映えに長く伸びた影の 
手足のしなやかに動くのを 
美しいと見惚れた 
サッカーボールが弾むたびに 
視線が鋭く光るのも 
伸びかけの髪をかきあげて 
おどけて笑う口元も 
触れてみたいと望みながら 
挨拶を交わすことさえできないまま 
冴えない自分が歯痒くて 
放課後の図書室から
見下ろすグランドは 
開けっ広げで輝いて見えるのに 
入ってゆけない場所に思えた 
号令 歓声 土を蹴る音 
耳を閉ざして読みかけの本を貪る 
後ろ姿に眼差し
 
いつか両手いっぱいに抱えた本を 
なにも言わずに半分持ってくれた
あの眼差しが優しい色をうかべて 
背中に注がれていることなど 
気付きもせずに
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