虫よけの風/服部 剛
 
出勤のバスの中 
ぷ〜んと近づいた蚊(か)を 
合わせた両手で潰(つぶ)す 

指にこびりついた
ご遺体を
どこへやろうか 
置き場に少し困って 
床に落とした 

( 蚊 は眼前(めのまえ)から取り除けても
( 人 は職場から取り除けない 

誰かの気まぐれな一言(ひとこと)が
ちくりと胸に刺さったら
それは
ちっぽけな、蚊の一刺し 

窓の外 

靄(もや)がかった空には 
「虫よけスプレー」の缶が浮かんでおり 
バスを降りると 
遠い空から地上へと噴射される密(ひそ)かな風を身に纏(まと)い 
職場の門へ

今日も歩く。







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