「閉じられた本の中」 /服部 剛
机の上に三冊の本を並べる。
一冊目を開くとそこは、
林の中の結核療養所。
若いふたりは窓辺に佇み、
夜闇に舞う粉雪をみつめていた。
二冊目の本を開くとそこは、
森の中のらい病患者隔離施設。
医者に誤診を告げられた娘は、
顔の溶けた患者達の哀しい目線を潜り抜け
生きる歓びが溢れるままに、廊下を走り出していた。
三冊目の本を開くとそこは、
白い布で顔を覆われた母親が横たわる、畳の部屋。
枕辺に正座する、ひとりの娘は白い布を外すと、
夢を見るように息を引き取った安らかな寝顔。
( きっと母さんは、今頃三途の川の畔を歩いてる
娘は何時までも、開くことの無い瞳に語りかけていた。
それぞれの閉じられた本を、机の上に並べる。
世界とは、地上だけのことではなかった
時計は、私が本を読んでいた部屋の背後に
三冊の本のそれぞれの部屋の壁に掛けられ
今も、秒針の音を、刻み続けている。
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