月夜の野良犬/服部 剛
日常の軌道を反(そ)れて、
行く当ての無いバスに乗る。
車窓に薄く映るもう一つの世界の中で、
駅周辺を流れる人々の葬列。
葬列の流れる行き先に、渦巻いている濁った泥沼。
やがてそこへ飲み込まれゆく、いくつもの純真な白い掌(てのひら)。
バスが泥沼の傍らを横切ると、
いつの間に、道の消えた大地の先に
只(ただ) 地平線と夕暮れる空があった。
暮れかかる夜空の始まりに、浮かび上がる満月。
荒涼とした大地に現れる、ほの白い光の道。
( 誰も知らない遠い夜の部屋から
( 月夜に響く唄が聞こえる
( 薄い衣の天女が手招きをしている
いつの間に、この体は飢えた野良犬。
ほの白い光の道を汚していく足跡の連(つら)なり。
( 渇いた紅い舌、黄ばんだ牙、荒れた息
本能は、赴(おもむ)くままに。地平線の潜(ひそ)む深い闇へ
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