晩夏 〜蝉の臨終〜 /服部 剛
そうしていつも、一つの愛は
踏み潰(つぶ)された駄菓子のように
粉々に砕けゆくのであった
そうしていつも、一人の女(ひと)は
林道を吹き過ぎる風のように
昨日(かこ)へ消えゆくのであった
ふと立ち止まり、見上げれば
木々の間のざわめく空に
雲の白鳥が、翼を広げて飛んでいた
見下ろせば
幹を離れて地に落ちた
独りの蝉(せみ)が、息絶え絶えに
細足で、何かをたぐり寄せていた
短い生を、懐かしむように
夏の終わりの暮れ行く空を
一心に焦がれて呼んでいた
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