落陽/結城 森士
 
八月十三日 晴れ
病院を出ると、涙目の太陽に染められた入道雲が住宅街の上に広がっているのが見えた。振り返ると安住さんのいる白い病室は真夏の街の賑やかな光からも隔離されていて、まるでそこだけ別な空間に浮遊しているような錯覚を覚えた。既に西の空よりも低い。
僕は近付きつつある暗闇から逃げるように、目の下に真っ直ぐ伸びていく灰色の影を追って坂道を落ちていった。


 ―――それは突然だった。二日前の八月十一日に大学の授業で同じ班の安住さんが入院したと聞かされた。突発性の肺の炎症ということだが、早ければ一週間で退院できるという。
僕は一人でお見舞いに行くことにした。本当は他の班員を誘ってみんな
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