棚の中のきりちゃん /服部 剛
長い間
棚(たな)に放りこまれたままの
うす汚れたきりんのぬいぐるみ
行方(ゆくえ)知らずの持ち主に
忘れられていようとも
ぬいぐるみのきりちゃんはいつも
放置された夜の中で独り
幸福だった日々を夢に見ている
遠い雪国に嫁いだ姉が
慣れない暮らしに疲れ
実家に戻っていた頃
人に言えない哀しい呟きに
2本の耳を傾け
黙って聞いていた日々を
昨夜
探し物をしていた僕は
久しぶりに姉の部屋の棚を開くと
ぬいぐるみのきりちゃんは
積み重なる本の上にうつ伏せていた
折れかけてガムテープを巻かれた
片方の耳には姉が
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