棚の中のきりちゃん /服部 剛
 
長い間
棚(たな)に放りこまれたままの 
うす汚れたきりんのぬいぐるみ 

行方(ゆくえ)知らずの持ち主に 
忘れられていようとも 
ぬいぐるみのきりちゃんはいつも
放置された夜の中で独り 
幸福だった日々を夢に見ている 

遠い雪国に嫁いだ姉が
慣れない暮らしに疲れ
実家に戻っていた頃  
人に言えない哀しい呟きに 
2本の耳を傾け
黙って聞いていた日々を 

昨夜
探し物をしていた僕は 
久しぶりに姉の部屋の棚を開くと 
ぬいぐるみのきりちゃんは 
積み重なる本の上にうつ伏せていた 

折れかけてガムテープを巻かれた
片方の耳には姉が
[次のページ]
戻る   Point(21)