遠藤周作の墓前にて。/服部 剛
私は今、七年ぶりに訪れた遠藤周作先生の墓前にいる。墓石の下
に供えた僕の第一詩集「風の配達する手紙」の表紙が夏の日に照ら
され、白い薔薇の影が、表紙の余白に揺れている。私が生けた赤・
白・黄色の花々は、茎を真っ直ぐに伸ばし、いくつもの蕾を開こう
としている。ペンを手にこの日記を書いている僕の腕に、滲む汗が
光っている。先程までエンジン音を立てていた草刈器が停まり、木
々にとまる蝉達の鳴声が、薄い雲の流れる夏空に響いている。
炎天下の道を、自らの弱さを抱え、よたついて歩いて来た私は、
最も敬愛する人の墓前の芝生に座り、手を合わせ、祈っていた。頬
に、ひとすじの汗を滴らせな
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