信濃追分の風/服部 剛
里芋の、大きい葉群が波打っていた。
( 樹影には、
( 肩の輪郭が溶けた野仏が
( 足を崩して座っていた
木々の葉の隙間からあふれる夕陽の光を背後に、
古い駅舎へと続くなだらかな坂道を走る。
信濃追分の風に吹かれて。
( 先程、五十年前に
( 妻の腕に抱かれながら血を吐いて死んだ男の
( 火鉢の置かれた和室の前に、
( 旅人の私は立ち尽くしていた。
辿り着いた駅舎の剥げた木柱に凭(もた)れて振り返る。
一面の、野原の向こう、
うっすら姿を消す浅間山に
信濃追分の夕陽は沈む。
( 野原に浮かぶ、今迄出逢った人の面影。
( 一人ひとりの心の空に
( 透きとおった、一輪の花が揺れていた。
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