夜空は星に刻まれてゆく/黒田康之
 
それはそれは奇遇だった
女は白いシャツを着て
新しい職場で熱心に働いていた
髪は赤く、短くなって
かつて応分に満ち満ちていた肉は
適度に削げ落ち
艶のない頬で笑うその女は
相変わらずの長身で
丸い低い声で笑う
女の肌は自立していて
多くの恋を身に帯びている
愛されることも
愛することも
求められることも
求めることも自在であった
あの夏の日の
日に焼けた肌はそのままに
相変わらず優しい目をして笑う
おそらくお前は
小さな家で
やさしい母さんになっても似合う
そのやさしい願望は
いつもお前の胸中にあって
お前以外の誰かがそれをかなえてゆく
お前の目と
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