呼声/服部 剛
夏の涼しい夕暮れに
恋の病にうつむく友と
噴水前の石段に腰掛けていた
( 左手の薬指に指輪をした
( 女に惚れた友が
( 気づかぬうちにかけている
( 魔法の眼鏡は外せない
( 僕等の前に独り立つ
( 大きい緑の木だけが
( 風に揺られながら
( 孤独者の知彗(ちすい)を唄っていた
一途な恋をする友と
恋を忘れた僕の間の
寂しい隙間に
夕涼みの風が吹き抜けた
目の前を流れる無数の足に紛れ
若い妊婦と手を繋ぐ夫が通り過ぎ
父の背中を追いかけ走る少年が通り過ぎ
首筋にぽつりと雨が落ちる
僕の鞄に入った折り畳み傘は穴が開(あ)き
役に立たない
( 隣に座る友の胸中はスコール
( ずぶ濡れのまま愛する女を探し
( 暗い森林を彷徨(さまよ)っている
( 遠い木々の隙間に
( うなだれ歩く姿を見かけた
( 平凡な日常への出口に立つ僕は
( 大声で、友の名を呼ぶ
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