渇いた夏 /服部 剛
 
照りつける夏の陽射しの下 
墓石の群を横切る私の地面に頼りなく揺れる影 
一瞬 頬に見えた滴(しずく)は 涙なのか汗なのか 

( 嘗(かつ)て 一途だった少年の恋は
( 夏の夜空に砕け散った花火

( 震える文字で感傷を刻んだ日記はノートから破り
( 粉々に千切って浜辺の風にばら撒いた

海を見渡す丘の上から石段を下りる 

( 背後に建つ障害者施設の掲示板に貼られた一枚の絵 
( 歪んだ線で描かれた二匹のイルカ 
( クレヨンの海の中で輪を描いて泳いでいた 

( 丘の下に広がる海
( 波の上でサーファーが跳ねていた 

最後の石段を下りる 
背後の踏み切りが鳴り出す 
海沿いを走る江ノ電がゆっくりと
古びた小さい駅のホームに入って来る 

照りつける夏の陽射しに
焼かれた地面の上
「?」の形になったまま
一匹の蚯蚓(みみず)が干乾(ひから)びていた 




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