プリオシン海岸/遊羽
 
一枚の空の色の
濃度の移り行くにつれ
波は静かに寄せ
そして音もなく引いていく

童話の中の
プリオシン海岸
千羽鶴が空の赤い部分へと消え
鉱石ラジオの声は
波の音のように大きく小さく
入江の静かな夕暮れに
意味ない明日の話を
撒き散らしていく

ふと目の前の海岸が
幻想四次の世界に
吸い込まれていきそうで
今 腰掛けている防波堤に
力いっぱいしがみついてみる
その瞬間
赤い空は逃げていく
ほら
プリオシン海岸は
地底の海
今見上げている空も雲も
幻想の狭間の蜃気楼

波の音も定かでない
静かな
本当に静かすぎる海岸
明日の時間の切り分けも
夢の世界と虚像の相関も
遠い靄と目の前の砂浜の区別も
微妙なバランスの上に
薔薇の花の如く咲く

ふと
我に返ると
海岸にいた
流れ星の軌跡が
滲むように夜空に消えた


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