空洞/結城 森士
 
僕は灰色の影を彷徨い
遂にトンネルの前で躊躇した
目前の空洞に絡む蔦が懐かしく
黒い世界に
鼻先から痛みの涙が迸る
ゆっくりと進行する光の無い世界で
僕は音も立てずに
いつまでも歩いた
どこまでも歩いた
白い足がついてきた
何百本
真夜中 七月の蝉

次第に自分が歩いているのか
分からなくなった
自分が何者なのかも
分からなくなった
黒い世界に
冷たい滴りが首筋を襲う
少女が出口を見ている
黒い世界から
溶けゆく笑み

無感覚の無意識で
この空虚を傍観している
僕の幻影が彷徨い歩く世界は
光すら意味を無くす
夏に散った何百本の


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