名前の無い街 /服部 剛
 
私達は知らない 
戦時中にかけがえの無い妻子や友を残して 
死んで行った兵士の 
爆撃で全身が焼け焦げてしまった少女の 
青空を引き裂く悲鳴を 

( 昔話の地獄絵巻は深い地底に葬られ 
( 二十一世紀の地上に敷かれた線路の上を 
( 列車は今日も私達を乗せ 
( 単調な輪音は加速する 

( ヘッドフォンで耳を塞いで首を振る学生 
( 手鏡を覗いて口紅を塗る女 
( 寝ぼけ眼で携帯電話の画面を見つめる企業戦士 

車掌のいない列車は
行く当ての無い乗客を乗せ
遠い地の果ての無人駅へと 
長いトンネルの暗闇を貫(つらぬ)いて
輪音は加速する 

  
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