達磨の道/服部 剛
彼は今迄何度も転んで来た。
愛に躓(つまず)き、夢に躓き、
恋人の前に躓き、友の前に躓き、
鏡に映る、自らの滑稽(こっけい)な顔に躓き、
振り返れば、背後に伸びる
長い日常の道には、
目には見えない石ばかりが落ちていた。
細い胴体(からだ)に達磨(だるま)の顔を乗せた彼は、
片目に黒い瞳を入れられぬまま、
よろめきながら立ち上がった。
思春期に綴った淡い約束の手紙を、
踵(かかと)の下に踏みつけて。
誰も知らない一滴の涙を土に落として。
周囲の人々が
悪気も無く話す悪戯(いたずら)な言葉を、
風と共に背
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