午後三時のアイロニー/藤原有絵
 
休憩の一時間に
自転車でぐんぐん漕いで
交差点をみっつ渡る危険な感じ

一年前の夏の日に
ロビーで仕事をさぼっていた君は
日焼けした横っ腹をぺろりと見せた

もう その頃には
恋人同士ではなかった

私がこうして
向かうのは
やっぱり恋の所為なのかしらね

会わなければ
記憶など
風化するものだと

ずいぶん考えもしたのだけれど
言葉交わす事がなくとも

一瞬の君を確認するため
ベルを鳴らさず
上手に人の間を縫って走る

いつかは
会えないくらい
遠くへいくつもり

君がどうとかではなくて

その時は
楽しかった事も
切なかった事も
ちゃんと好きだった事も

この街に置いていくから

今は
颯爽と
通りすがる気持ちで
自転車を漕いで
君に会おうと思う

風化して
冷たくなっても

もう泣いたりしないように

不毛でも
不器用でも

好きである事には
真っすぐでありたいと
まるで君への想い

そのもの

戻る   Point(3)